捕鯨だ Part 2


 さて,前回では捕鯨に関する問題の導入部分でした.そうそう,その前に僕自身の立場を明確にしといたほうがいいでしょうか.僕個人としては,自然保護,環境保護には大賛成です.すべての種が共存するために人間だけがこのような自然破壊をしていいはずがありません.クジラが絶滅の危機に瀕しているのであればぜひとも保護すべきです.種の保存より人間の利益を優先させる道理はありません.それは日本の無駄な公共事業にも当てはまります.
 しかしながら,僕の意見は捕鯨に反対する各NGOの立場とも距離をおいています.グリーンピース・WWFなども自然保護,環境保護を目的としていますが,それを実現するための手段,それを裏付ける理念が僕とはとうてい相容れないからです.こと捕鯨に関して.どこがどう相容れないのか,それを以下では少しずつ説明したいと思います.

クジラは知能の高い哺乳類である.よって,このような生物を殺すことは人道的に許されない.

 まずはこれ.左よりの団体らしくかなりセンセーショナルな主張です.最近はこういう主張はだいぶ少なくなってきましたが,無いとはいえないのが現状です.この文句を読んで何か感じる人はいませんか?欧米のヒステリックな活動家がよくこのようにのたもうて,クジラを食する日本人などをあたかも野蛮な民族であるかのように蔑視します.欧米に多いベジタリアンもこれに通じるものがあります.(とかく,アメリカ人はヒステリックに走る傾向がある.禁酒法などが典型.)
 要するに,すべての動物を食べることを拒否したのがベジタリアン.まあそれはいいとして,知能の高い生物を殺してはいけないという主張は裏返せば知能の低い(?)生物は殺してもかまわないということです.(人間とか?)これはすごく危ない発想で,ナチスドイツのユダヤ人迫害,ひいてはあらゆる民族差別,人種差別と同じ理論だからです.そういう発想をすることのほうが人道的に許されない.ベジタリアンだって植物という生物を殺している.まず,生物は他の生物を殺し食べていかないと生命を維持できないという大前提を認めないと,すべての主張は欺瞞になってしまいます.
 クジラを取るなと主張することは全然かまわない.しかし,その理由として上記の文句を上げるならそれは思い上がりもはなはだしい.

 また,自然保護という立場から見てもこの主張は矛盾を抱えています.自然はさまざまな生命の活動の相互作用でバランスをとっており,それを保護するためには常にトータルにバランスの取れるように保護しなければなりません.言い換えれば食物連鎖のピラミッド全体をバランスよく保護しなくてはいけないのに,ある特定の種だけを極端に保護してあとは知らんといったことでは本当の意味で保護とはいえないのです.しかし,クジラのかわいいというイメージが先行して感情的な保護運動になっているのも事実です.
 クジラの乱獲をしたというのは紛れも無い事実です.そしてある特定の種が絶滅に瀕しているのも事実です.何よりも大事なことはそうやって壊された自然は二度とは元に戻らないということです.この事態を招いた捕鯨国は重大な責任があります.だからといって捕鯨を禁止したところで元の状態に戻らないのも事実です.現実的な解決策としてできるだけ元の状態に近い状態にするために,クジラのいる海域のトータルな生態系の監視が必要であって,IWCが主張するような南氷洋のサンクチュアリ(*1)計画なんてものは無責任以外の何者でもありません.NGOは真にクジラの保護を考えているのではないからこういう案が出るのかもしれません.単なる自然保護キャンペーンのマスコットに過ぎないのです.そこに,今のNGOの問題点が浮き彫りになるのですがそれはまた以降で.
 これと似たような問題に日本の諫早湾の水門を巡る問題があります.あれも,生態系が乱れのりが白くなったからといって,水門を開ければいいっていう単純な話ではありません.開けたって元の状態には二度と戻らないのです.そこに公共事業の罪の深さがあります.

 話を戻すと,こういう問題はとかくNGO側が感情的になりがちです.やはり,冷静な分析結果によって,冷静に議論していかなくてはならない問題です.クジラが絶対に神聖でそれを捕る人間は悪だっていう単純な図式ではないのですが,保護団体にはそういう構図が見えないためにまったく議論がかみ合いません.感情論に終始します.そこに対立の根深さがあるのです.
 いつかのテレビで,クジラの話題ではなかったのですがある環境保護の会合で,日本のテレビがアメリカの女性NGOスタッフにマイクを向けると,その女性は「クジラを食べるような人たちと話すことは何も無い.」と言って問答無用に怒って去っていったのです.そこは捕鯨に関する会合ではなかったのに.この女性の行動にすべてが象徴されているような気がします.

 最初にも述べたように,このような主張は公式な見解としてはなくなってきましたが,多くの活動家個人の胸の中にあることは否めないでしょう.
 それでは,今日はこの辺で.続きはまた以降.


*1 サンクチュアリ
特定の海域を一切の禁漁区にして人間の介入をやめ,まさしく聖域化すること.

 



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